杉たちのはなし
杉の木がぎっしり生えたある山で・・・
杉の木(い) :(おもむろに)おれたちは人間の役にたつよなあ。
となりの
杉の木(ろ) : ああ、いつかは切られて家の材木にされるしな。
杉の木(い) : おれはもうそろそろ切られてもいいと思ってんねん。
杉の木(ろ) : えっ、ほんま?
おれはまだそんな心がまえできてへんわ。
杉の木(い) : この山で、もうかれこれ五十年。
そろそろ切られて誰かの役に立てればいいと思ってんねん。
材木にされたら、姿は変わるけど、人間の家で生き続けるんや。
杉の木(ろ) : 切られても生き続けるんか?
杉の木(い) : 今までとは違う生き方やけどな。
うまくいけば百年、二百年生きられるかもしれへん。
杉の木(ろ) : えー、百年、二百年?
杉の木(い) : ああ。この間ここに木見にきた人間がゆうとった。
どんな状態で過ごすかによるらしいけどな。
杉の木(ろ)はしばらく考え込んだ。
杉の木(い) : おれたちは切られた後も呼吸を続けるんや。
何かでふさがれてその呼吸ができひんかったり、
ずっとじめじめしたところに置かれたりしたら体もたへん。
そやけどちゃんと風のとおるところで呼吸できて
雨とかあたったとしても、すぐかわく場所やったら
けっこう生きのびられるんやって。
杉の木(ろ) : おまえ勇気あんなあ。おれはやっぱりあかんわ。
もし呼吸できひんかったり、じめじめしたところに置かれたり
したらどうすんねん?
杉の木(い) : もしそうやったとしても、そんなすぐに死んだりせえへん。
それに材木として使われてる間は人間の役にたつし。
杉の木(ろ) : なんでそんな人間の役にたちたいねん?
杉の木(い) : だれでも年をとるにつれ、考え方が変わるんや。
近くの
杉の木(は) : ちょっとゆうてええか?
杉の木(い) : 何や?
杉の木(は) :切られんとここに生えてるだけでも人間の役にたってるって
知ってるか?
杉の木(い) : なんで生えてるだけで役にたつんや?
杉の木(は) : おれらは人間がよごした空気をきれいにしてるんや。
杉の木(い) : ああ、それは知ってるわ。
そやけどおれは材木になりたいんや。
杉の木(ろ) : 生えてるだけで人間の役にたつんやったら、
おれはここに生えてるだけでええわ。
杉の木(は) : おれもそうや。
しばらくみんなだまる。
近くの
杉の木(に) : あの・・・実はぼくたち人間にいやがられてるて知ってますか?
杉の木(ろ) : いやがられてる?
杉の木(に) : ぼくたちのまきちらす花粉で都会では人間が病気になるらしいです。
杉の木(は) : ああ、知ってるで。そやけどそれはおれらのせいとちゃうで。
杉の木(に) : えっ、じゃあだれのせいですか?
杉の木(は) : だれのせいかようわからんけど、
この山のふもとの人間はぜんぜん病気にならへんねんで。
なんで近くの人間が病気にならへんのに、都会の人間が病気に
なんねん?
おれらのせいちゃうって。
杉の木(に) : だけど病気になるのはぼくたちのせいだと思って、
ぼくたちの仲間をどんどん切ってしまえっていう人間もいるそうです
よ。
杉の木(は) : なんちゅうらんぼうな人間や。
杉の木(ろ) : おれはまだ切られたないで。
杉の木(い) : おれは材木にされるんやったらかまへんわ。
それから2週間後、話をしていた杉たちを含め
五十本ほどの杉の木が切られて運ばれた。家の材木にされるという。