魚になった少年

これは、ある小さな村でのおはなし。
 ある時、子どもたちがいつものように、寺の近くであそんでいます。子どもたちの中にジュウゴという男の子がいました。ジュウゴはいたずら好きで、友だちのものをかくしたり、だましたりします。
 こどもたちは、かくれんぼをはじめました。寺の近くの池のまわりでみんなかくれています。おにの番のジュウゴは、みんなが「もういいよ」と言ったのでさがしはじめましたが、ちょっとさがしても見つからないので、めんどくさくなってきました。そこであることを思いつきました。
「うわー、池に池に変な生き物がいるで!」
ジュウゴの大声につられて、イチスケ、ミチル、テツゾウがしげみから顔を出しました。
「イチスケ、ミチル、テツゾウ見つけた」
ジュウゴはうれしそうに言います。
「また、だましたな」
イチスケがおこります。
「おまえとあそんでも、つまらん。すぐだますし」
テツゾウが言います。
「もう、ジュウゴは魚になって池の中ではんせいしてなさい!」
ミチルが言いました。すると、ジュウゴの体がぱっと魚になり、ぴょんととびはね、池へぽちゃんとはまりました。みんなびっくりしました。
「ミチルがゆうたとおりになった!」
イチスケが言います。
「だいじょうぶかなあ」
テツゾウが言います。
「ジュウゴはだいじょうぶ。それよりちょっとはんせいしてもらうわ」
ミチルが言います。
 三人はそれから、またかくれんぼをはじめました。
 魚になったジュウゴはというと、これでいたずらができないどころか、あそべません。しかたないので池中をおよぎまわります。池の外ではみんなの声がきこえます。
(みんな、なにしてんのかなあ?)
ジュウゴは気になってしかたありません。
(それにしても、なんでみんなおこるんかなあ。じょうだんやのに)
ジュウゴがかんがえごとをしながら泳いでいると、ほそ長い魚がいっぴき近よってきました。
「おまえ、見たことないやつやな」
「そら、さっき池にはいったばかりやし」
「なんで、はいってきたんや?」
ジュウゴは今までのことを、その魚にせつめいしました。
「それは、おまえがわるいわ」
「なんで?」
「おまえがかくれんぼのルールとちゃうことしたからや。だまされて見つけられた方はおもろないよ」
「そうかなあ・・・」
ジュウゴは今までも同じようなことを何回かしているので、そのときのことも思い出してかんがえました。
「そうか、だまされた方はおもろないんか・・・」
ジュウゴは自分もちょっとわるかったのかなと思いました。
 だんだん日がくれてきました。イチスケ、ミチル、テツゾウはというと、ちょっとジュウゴのことが心配になってきました。三人は池の中をのぞきながら話します。
「もう、そろそろはんせいできてると思うけどなあ」
テツゾウが言います。
「暗なったら、こわいやろう」
イチスケが言います。
とつぜん
「ジュウゴ! はんせいできたら出ておいで! もうかえるよ!」
ミチルが大声でさけびました。
「あっ、ミチルの声」
ミチルの声はジュウゴにきこえました。
「友だちか?」
さっきの魚がききます。
「うん」
「帰るんか?」
「うん」
「また、気がむいたら泳ぎにおいで」
「うん、ありがとう」
ジュウゴは声のきこえた方にむかって、むちゅうで泳ぎました。めいっぱいのスピードで。そして、池の外にとびだしました。
「ばしゃっ!」
いきおいよくとびはねる水に、みんなびっくりしました。
「ジュウゴ!」
みんながちゅうにうかんでいる魚にむかっていっせいにさけびました。
すると魚のジュウゴはぱっと人間のすがたにもどり、くさむらにとびこみました。
「だいじょうぶ?」
ミチルが声をかけます。
「いててて」
ジュウゴの声です。
「おまえ、すごいジャンプやなあ」
イチスケが言います。
「おれ、もう、だまさへんて決めたし」
ジュウゴが顔をあげて言いました。
「おれらも、もうおこってへんし」
テツゾウが言います。
「うん、おこってへん」
イチスケも言います。
「ちょっと信じられへんけど、今日はゆるしたげるわ」
ミチルが言います。
ジュウゴはほっとしました。
 あたりはますます暗くなってきます。
「さあ、かえろ。おかあさんにおこられるわ」
ミチルが言うと、みんな池に背をむけ、家にむかって走りはじめました。