きみはなにをおもってる?

リョウは動物が大好き。
そして運のいいことに
リョウは動物園の近くに住んでいる。

ある時、リョウがゾウのおりの前でゾウを見ていると、
少しはなれた所にちょっと目立つおじさんがやってきた。
見た目もすこし変だがすぐに変な行動をとりはじめた。
「おーい、ゾウタ、来たでー」
っと手をふってゾウに話しかけているのだ。
リョウはびっくりしておじさんを見つめた。

ゾウはえさを食べていておじさんに気づいてないようだ。
おじさんはやさしそうな目でゾウのようすを見つめている。
しばらくしてゾウが食べおわったようだ。
「ゾウター、ここやでー」
おじさんはまた声をかけた。
ゾウはゆっくりとおじさんの方を見た。
リョウはおどろいた。
おじさんとゾウはしばらく見つめあっていた。
しばらくするとゾウは向きをかえ歩いていった。
おじさんは一人まんぞくそうにうなずいていた。
そしてゾウのおりからはなれどこかに歩きだした。
リョウは気になってあとからついていった。

おじさんはこんどはライオンのおりに近づいた。
リョウはじつはライオンやトラがこわい。
だけどおじさんのことが気になってがんばっておりに近づいた。
おじさんはライオンにむかって
「よお!調子はどうや?」
と話しかける。
おりの中をうろうろしていたライオンは足を止め、おじさんの方を向いた。
なんで?
リョウはとてもふしぎだった。
おじさんとライオンはしばらく見つめあい
それからライオンはまた歩きだした。
おじさんは今度は「うーん」とうなりながらなにか考えているようだった。
リョウは思わずおじさんの顔をのぞきこんだ。

おじさんはリョウが見ていることに気づくとにこっと笑い
「動物好き?」ときいた。
「うん」
「つぎはどこ行こかな・・・ゴリちゃんにでも会いにいこかな・・」
おじさんはそう言うと歩きだした。
リョウもついて行った。
二人はゴリラのおりまでやってきた。
「ゴリちゃん、元気か?」
おじさんはやさしそうな声で言った。
ゴリラはちらっとおじさんの方を向き、また向こうを向いた。
リョウはおもいきってきいた。

「なあ、おじさん、なんで動物に話しかけてんの?」
「話したいから」
「そやけど、動物は話されへんやん」
「うん、でも、あいつらの気持ちを知りたいんや」
「えっ?どうやって知るん?」
「目を見つめて、おまえは今なにをおもってるんやって
といかけんねん。動物の気もちを知ろうとするんや」
「そしたらわかるん?」
「うん、だいたいな」
「ほな、ゾウはなにおもってたん?」
「あいつはきょうのえさはおいしかったからまんぞくしとったんや」
「ほんまに?」

「ほな、ライオンは?」
「あいつはいらいらしとったな。
もっと広いとこ行って走りたいおもとったんや」
「ふーん。ほなゴリちゃんは?」
「あの子はちょっとはずかしがりやねん。
なかなか見つめかえしてくれへんから
なにをおもってるのかよくわからへんねん。
そやけど、ほんまはうれしいんやで、話しかけられて」
「そうなん?」
それからおじさんとリョウはラクダに会いに行った。
「なあ、ぼくにもできるかなあ?」
リョウはおじさんにきいた。
「やってみ。なんでもいいから話しかけて
ほんでラクダがなにをおもってるんやろって知ろうとしてみ」
「うん、やってみる」

リョウはラクダのおりまでやってくるとおじさんに言われたとおり
「ラクダさん、こんにちは」
と話しかけた。
ラクダはじっとちがう方向を見ている。
「ラクダさん、なにを思ってんの?」
ラクダはちがう方向を見たまま。
リョウはしかたないのでラクダが向いている方に歩いて
ラクダの正面にやってきた。
「ラクダさん、なあ、きこえるやろ?」
するとラクダはさっと向きをかえちがう方へ歩いていった。
リョウはがっかりした。
「ラクダがなにおもってるんか、わからんかった」
「そうか、きみにはちょっとむずかしかったかな。
まあ、きっとそのうちできるようになるわ」
おじさんは言った。
ほんまかなあ、とリョウは思った。

それから二人はシロクマに会いに行った。
「シロ、元気か?」
おじさんはさっそく声をかけた。
シロクマは新しく入ってきた仲間が気に入っているらしいと
おじさんがおしえてくれた。
そのつぎにはげたか。
はげたかもライオンのように広いところをとびまわりたいとおもってると
おじさんがおしえてくれた。

それから二人は動物園のベンチにすわり休けいした。
「動物だけとちゃうねんで」
おじさんがそう言った。
「何が?」
「気もちがわかるんが。人間かて同じや。
話しかけて、目を見て、なにかんがえてるんやろとか
なにをおもってるんやろとか知ろうとすればわかることもある」
「ほんま? じゃあぼくが今おもってること当てて」
「よーし」
おじさんはリョウの目をじっと見た。
「ほんまにぼくの考えてることわかるんやろか?このおじさん、
そうおもってるやろ?」
「うん。そうおもってる。当たってる」
リョウはうれしそうに言った。
「ははは・・・」
おじさんはゆかいそうに笑った。

リョウはおじさんと動物園の門のところでわかれると
家までかけあしでかえって行った。
さっそく、おかあさんがなにをおもってるか
当ててみようとかんがえ、わくわくしながら。

家に帰るとさっそくおかあさんの顔を見た。
「なあ、おかあさん、おかあさんが今おもってることあてるで」
「へえ、ほんま?」
「おかあさん、なにかいややなっておもってる?」
「えっ? そうやなあ、すごいいや。なんでそう思うん?」
「だっておかあさん、いやそうな顔してるもん」
「そう? じつはちょっと頭いたいねん。そやからいややなって」
「だいじょうぶ? おかあさん」
「だいじょうぶ。リョウ、今日なんかいつもとちゃう、やさしいで。
どうしたん?」
「うん。あんな・・・」
リョウは動物園で会った不思議なおじさんのはなしをはじめた。