「ただいまー」
「おお、帰ってきたか、どうやった?」
「久々に弾けて楽しかったわ」
「よかったなあ」
「また、弾きたなったら、杏ばあさんに頼も」
「杏ばあさんから請求書きてるで」
「えー、ちゃっかりしてんなあ、あのばあさん」


ショウヘイは宿題を前にぼーっとしていた。
(なんで、弾けたんやろ? なんかのり移ったんかな? きもー!
でもあんだけ弾けたらおもろいな。また弾けるやろか?)
次の日、ショウヘイは学校から帰ると、すぐにピアノに向かった。
これほどピアノを弾きたいと思うのは、はじめてかもしれない。
昨日、弾いたのはなんやったんやろ? とりあえず、モーツァルトのソナタの譜面を広げた。弾き始める。なんか、別に今までと変らない。いつもと同じ所で間違える。
「はあー、なんや」
その時、母親が部屋に入ってきた。
「やっぱりまじめにやる気になったん? お母さんもちょっと考えてんけど、せっかく今までやってきたんやし、もったいないし、先生にはまだゆうてへんのや」
(なんや)
ショウヘイはちょっとがっかりした。
(もう、おんなじ曲ばっかり飽きた、うま弾けへんし)
ショウヘイは気をよくしている母親の機嫌をそこねるのも、あまり得策ではないと思い、がまんして、練習を続けた。


つづく


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